日記3.徳と倫理?(6/21)

S.D.ワルシュ「目的論、アリストテレス的徳、正しさ」(『徳倫理学基本論文集』勁草書房)を読んだ。他人と読む機会がなければ、読むこともなかったと思う論文集だが、上に挙げた論文を最後に一冊読んだことになる。

 

本書から、とりあえずは端的に、徳倫理学は、立法を指向して義務から出発する道徳理論を批判し、人の性質に基礎を置く「有徳な人」の記述から「正しい行為」の理論を打ち立てようとするものなのだと理解した。それぞれ、前者はカントの義務論や功利主義が、後者はアリストテレスが、主な参照点として引かれる。

 

印象としては、批判と構築というよりも、倫理学の領域の確保sicherstellenと記述したほうが近い気がする。大雑把に言えば、ロールズが主題としたような正義*1とは異なるところに、倫理学の領域を確保し、明確に境界を画そうとする試みなのだろうと勝手に理解した。

 

細かい話だが、「アリストテレス的」や「カント的」という語の多さに辟易した。さらに、「アリストテレス的理論」と「アリストテレスの理論」が混在しており首をひねっていたら、どうもそれぞれAristotelianとAristotle'sに対応させての処置のようで驚いた。思うに、上のような関心が先にあり、そこにアリストテレスを引き込んだ結果、先の論者が引いた意味での「アリストテレス」が問題になるようで、留保としてこのような語用がなされたのではないだろうか。まさにS.D.ワルシュの論文は、そこにアリストテレスAristotle's理論を持ち込むことで議論を進めようとするものであった。(ぱっとしない反論への再反論はぱっとしない?)

 

まぁずいぶん前に読んだ、ジュアリ・アナス「古代の倫理学と現代の道徳」(納富訳)は面白かった。

*1:メモ:主題となるのは<社会の基礎構造>「主要な社会制度が基本的な権利と義務を配分し、社会的共同が生み出した相対的利益の分配を決定する方式」『正義論改訂版』p11あるいはその構造を主題とする正義をめぐる係争を前提とする理論